がんばろうニッポンの中小企業とは?

塗って剥がせる塗料を一般消費者に向けてデザイン

高い技術力をベースに生み出したこれまでにない塗料素材

中小製造業が自社製品をブラッシュアップして新たな切り口で発売した商品がヒットしている。商品の名は『マスキングカラー』。塗って剥がせてまた貼れる──。全く新しいタイプの塗料として注目を浴び、世界展開も視野に入れた製品へと順調に成長している。

東京ビジネスデザインアワードをきっかけに

マスキングカラーは好きな所に自由に塗ったり描いたりした後乾かすと、きれいに剥がすことができる塗料だ。剥がした後、もう一度別の所に貼り直すことも可能で、壁の飾り付けやショーウインドウなどへの書き込み材料として、ロフトや東急ハンズなどのほか、Amazonでもネット販売されている。この商品を開発・販売する太洋塗料(東京都大田区)は、1951年創業の老舗塗料メーカー。主に建築用、工業用、路面標示用などの特殊塗料の開発、製造を行ってきた。最近では結露防止用塗料や、無機塗料など環境に優しい塗料のほか、太陽光反射率60%以上の濃色の遮熱塗料の開発に成功した。黒色などの濃色系の塗料は太陽光を吸収しやすい性質を持つため、遮熱塗料の色としては適さないとされていた。だが、取引先から、塗ったあと眩しくない黒色で遮熱塗料をつくって欲しいとの要望を受け、開発を進めた。黒色系の遮熱塗料は同業他社でも開発されてはいるが、「60%もの反射率を誇るのはほかにないはず」と同社の林清史常務は誇る。

マスキングカラーの誕生はそうした高い技術力のもとで培った長年のノウハウが結集した製品だ。誕生のきっかけは2012年、東京都主催の第1回「東京ビジネスデザインアワード」だった。都内の中小企業の活性化を目指し、中小企業がもつユニークな技術や素材に対して、デザイナーが新たな用途の開発や事業全体を企画提案する新しい企画で、マスキングカラーはこのアワードでテーマ賞を受賞。商品化に至った。

「最優秀賞だという下馬評が高かったのに受賞できず、逆にスタッフ全員で『一番最初に事業化してやろう』と一致団結した」(林氏)。企画から商品化までわずか半年。中小企業ならではのフットワークの軽さが役立った。その後、13年にはグッドデザイン賞ベスト100ならびに特別賞(ものづくりデザイン賞)を受賞したほか、今年に入って世界的な権威であるデザイン賞『iF Design Award』も受賞。中小企業のビジネスモデル成功事例として注目を集めている。


業界の発想では生まれなかった製品

マスキングカラーは水系ストリッパブルという剥離性塗料を一般消費者向けに改良したものだ。水系ストリッパブルは、工業製品の表面保護などに使われている材料。水性なので屋内で使用してもにおいがほとんどせず、取り扱いが簡単な工業材料だが、一般での知名度はほとんどなかった。

デザインアワードでは、デザイナーの小関隆一氏が使いやすく洗練されたボトルに詰め、カラーバリエーションを持たせた洗練されたデザインを提案。さまざまなところに描くことのできる、塗って剥がせる新しい形の塗料へと変身させた。小関氏の提案について林氏は、「どんな人が買い、どういう使い方をするかまで具体的で明確。これなら商品化できるという手応えがあった」と言う。商品化を担当した技術グループマネージャーの神山麻子氏も「これならば」と感じたという。「実は、このデザインアワードには、あまり期待していなかった」と林氏は明かす。水系ストリッパブルは、業界の中にいて当たり前のように開発された製品。「それほど目新しいものではない」と思っていたのだ。
全く違う視点から見ることで、そこに新たな価値が生まれるのだ。



高い技術力・品質とブランド保持力が成功の秘訣

マスキングカラーはブランド価値を高めるために色や容器、取り扱い販売店なども実に細かく計算されている。BtoBからBtoCを成功できた背景には、「デザイナーの徹底したこだわりがあった」と林氏はうち明ける。

さらに成功の秘訣として「技術力と品質が不可欠」と神山氏は言う。特に塗料は同じ原料を使っていても、圧力や温度などが異なるだけで、出来上がりが変わってしまう繊細な素材だ。「ものをつくる側として品質と技術に関してはっきり責任を負うべき」と職人としての厳しい視点を語る神山氏は、平成25年度東京都大田区が選ぶ「大田の工匠」に選ばれた初の女性工匠でもある。

同社の戦略商品となったマスキングカラー。東急ハンズやロフトなど、誰もが知る店に、自分たちがつくる製品が売られていることは、社員の新たなモチベーションになっている。

現在、試験的に韓国での販売が開始されたほか、『iF DesignAward』を受賞したことで、6月から9月までドイツのハンブルグで展示もなされている。「展示を足がかりに、ヨーロッパやアメリカへの展開も考えたい」という林氏。見せ方を変えた新たな塗料は、日本から世界へと羽ばたいていく。

※月刊ビジネスサミット2014年8月号より