がんばろうニッポンの中小企業とは?

カリスマ性はなくとも会社は動く

社員を巻き込み絆を結ぶ

国内に自社工場を持つ老舗歯ブラシメーカー、ファイン(東京都品川区)は、乳児用の歯ブラシや、介護用の高機能歯ブラシなど、オリジナリティーあふれる製品を開発、製造している。2010年に母親である先代から会社を引き継いだ清水直子社長は、社員がチームとして機能する仕組みを構築。カリスマ的存在だった先代とは違うやり方で、社員同士の絆を深めている。

トップダウンではなく合議制へ

「私に会議の進行役をやらせて欲しい」。今からおよそ8年前。現在のファイン社長である水直子氏がこう言ったのは、
副社長に就任したばかりの時のことだ。当時、会議といえば先代社長である直子氏の母親が話すのが主で、社員に「意見はないか」と尋ねても、活発な意見交換などがしにくい雰囲気があった。「社員が萎縮せず、意見を言える場にしたいと思った」(直子氏)。

同社は創業65年、会社設立4年という、老舗の歯ブラシメーカーだ。直子氏の父が独立し、ファインを設立。1994年、病気になった父に代わり、母・和恵氏が2代目社長に就任した。

和恵氏は、3児を育てた母親としての意見を商品に反映。持ち手が輪になっていて持ちやすい乳児専用の歯ブラシなど、ヒット商品を次々と生み出した。

「母は自分からどんどん前を走っていくタイプ」と直子氏は分析する。「でも私は違う」。会議の提案も、そうした直子氏の考え方が反映されたものだった。


「なるほど会議」で意識改革

こうして2006年頃から、直子氏が進行役となり、これまでとは違う形での会議がスタートした。直子氏が心がけたのは、出てきた意見を「なるほどね」とまずは受け止め、〝否定しない〞こと。参加メンバーの意見を聞き出すように会議をプロデュースしていった。「くだらないと思うことでもいいから、まずは些細な思いつきを出し合おう」と呼びかけ、出てきた意見に対して、「なるほど」と相槌を打ちながら、目に見えるように書き出した。「自分が出した意見が、どんなものであっても否定されないことが分かると、これまでダンマリだった社員も、少しずつ発言するようになった」(直子氏)

新商品の開発会議では、こうして出たさまざまな案の中から「今のファインでできること」を社員に選んでもらった。直子氏から見てデメリットがあると感じた時は、「こういうデメリットがあると思うが、それについてはどう思う?」と問いかける。すると、「うまくいかないかもしれないけれど、今回はやるだけやってみましょうよ」という意見や「確かにそれはまだ早いかな」など、皆が自分の考えを発言するようになっていった。

意見を出し合って進めた会議から新商品が生まれるようになると、開発に社員が自ら関わっているという実感を持つことができるようになった。社員に当事者意識が生まれ、より自社の製品を愛するようになっていったのだ。この会議は、直子氏が社長となった現在でも同様に継続している。


安心して社長になってもらうための
「社長の花道プロジェクト」


直子氏が会社を先代から引き継いだのは、10年8月のことだ。

先代社長は折りあるごとに「会長になるときは、次の世代に安心して会社を渡したい」と語っていた。それを知っていた直子氏は、どうやったら安心してもらえるか、さまざまな方法を模索した。

 これまでにないような売り上げを上げることも考えた。だが、単に数字を追っただけでは、来年はどうするのか? 再来年は? と、結局心配をかけることになるだろう。であるならば、継続的に売り上げが上がりやすくなる仕組みをつくろうと思い至った。「仕組み化することで、会社が存続し続けるという未来を想像できるものを見せたいと思った」(直子氏)。

こうして動き出したのが、「社長の花道プロジェクト」だ。まずは営業職が、これまでより効率よく仕事ができる仕組みを構築したのだ。

これまで同社の営業は、企画から見積書の作成、提案、サンプルの発送、請求書の作成といった一連の作業すべてを、営業スタッフが一人で行っていた。「外出をしていても、サンプルを送付するためだけに社に戻って来なければならないなど、仕事効率が悪かった」(直子氏)。そこで、社内にいれば誰もができる作業を、内勤スタッフが分担する仕組みを考えた。

見積書は、見積金額を営業が出しさえすれば、フォーマットに則って誰でも作成が可能だ。ほかにも、サンプルの発送など、担当の営業スタッフが絶対にやる必要があること以外の業務を内部でカバー。事務処理は内勤スタッフが、営業活動は営業スタッフが、と業務を分担することで、仕事効率を向上させた。

「引退して会長になる母に、『自分たちで協力してやっていけるだろう』と思って欲しかった」(直子氏)

さらに、社長交代の前月である10年7月には、「社長の感謝祭」と名付けた社長交代の儀式を行った。

神主に依頼をし、「先代社長を守ってくれていた神さまに、社長交代を報告した」(直子氏)。守ってくれていたことを感謝すると同時に、これからは直子氏が率いる会社を守って欲しいと祈願する儀式だ。とりわけ信心深いということではなかったが、この儀式は「いい『けじめ』になった」と直子氏は言う。先代は、社長を直子氏に引きわたしたことを実感。直子氏も、「神さまがついている」と思うことが社長業にプラスに働いていると言う。


一歩先のニーズに応える

社長となり、先代とは違うタイプのリーダーとして会社をまとめあげて来た直子氏。「最近では、メーカーとしてだけでなく、サービスの分野に踏み込んだ役割を求められていると感じる」。

たとえば歯ブラシの展示即売会に出展すると、小さな子どもを持つ母親から「歯が生えてきたけれど、いつから歯磨きをすればいいのか」。「虫歯にさせないためにはどうすればいいのと聞かれることが増えた。だが、同社には歯科衛生士などの専門家はおらず、ごく一般的な答えしか返すことができないでいた。

「ウチの歯ブラシを使ってくれている人たちの疑問に、きちんと答えることができない歯痒さを感じた」と直子氏は言う。かといって、そのためだけに歯科衛生士を雇用できるほど、会社に余力があるわけではなかった。そこで思いついたのが、フリーで動くことができる歯科衛生士とタッグを組むことだ。知り合いから、歯科医院などで正社員として働いておらず、口腔ケアセミナーなどの講師をしている歯科衛生士を紹介してもらい、13年から、近隣の小さな子どもをもつお母さんたちを対象に、口腔ケアのセミナー開始。セミナーでは、お母さんたちから思いもよらない質問がくることも多い。「質疑応答を聞いているだけでも、新商品のアイデアにつながる」(直子氏)。

「単なる歯ブラシメーカーではなく。その先を目指したい」と語る直子氏。使いやすい歯ブラシをつくり提供するだけでなく、その使い方や普段の口腔ケアの方法など、多様化する消費者ニーズに応えることができる会社を目指している。


※月刊ビジネスサミット2014年5月号より

  • ファイン株式会社
  • 東京都品川区南大井3-8-17
  • 03-3761-5147