がんばろうニッポンの中小企業とは?

制約の中から生まれた高度な技術

産学連携と企業間コラボで宇宙利用を促進

日本の宇宙開発の黎明期から、ロケットや人工衛星関連部品を宇宙科学研究所や大学等と共に研究開発し、日本の宇宙開発の歴史と共に歩んできた企業がある。明星電気(群馬県伊勢崎市)は、宇宙環境を計測するカメラなどの観測機器を衛星やロケットに搭載するといった、常に新たな技術を開発し続けてきた。近年では、独自に超小型人工衛星を開発。宇宙利用ビジネスの最先端をひた走っている。

宇宙に一番近い会社

明星電気の宇宙関連事業の始まりは、日本の宇宙開発の歴史の始まりとほぼ同時だ。

日本の宇宙開発が始まったのは1950年代に入ってからのこと。東京大学の糸川英夫博士が中心となり、地球観測のためのロケット開発が行われることになった。

それまで、日本には宇宙開発という分野はなく、ロケット部品や宇宙で使う計測機器をつくっているところもなかった。そんな状況下にあって、「『宇宙に一番近い会社』として、ロケット開発に携わることになった」。同社の宇宙防衛事業部・谷本和夫部長はこう語る。

明星電気は、戦前から高層気象情報を計測し、それを地上に送信する「ラジオゾンデ」という機器をつくっていた。ラジオゾンデは、観測機をゴム気球につけて飛ばし、上空約30キロメートル地点まで上昇しながら気温、湿度、気圧などを観測し、無線で地上に送信する。

上空30キロメートルといえば、雲がある対流圏よりも高く、気温はマイナス50度ほどの環境となる。悪環境でも正常に機能する装置をつくる「宇宙に一番近い会社」として、ロケットの共同開発パートナーの1社となったのだ。

最初に手がけたのはロケットの部品で、テレメータと呼ばれる遠隔計測装置だ。テレメータは、宇宙環境などのデータを計測、記録し地上に伝送するものだ。これは、日本で最初に計測機器搭載のロケットとして飛翔テストが行われた「ベビーTロケット」のテレメータとなった。


民生部品で低コストを実現

こうして宇宙開発に関わるようになった同社は、当初、テレメータなど衛星を成り立たせるために必要な基本的な機器(バス機器)をつくっていた。だが、共同で開発を行う中で知り合った、宇宙科学を探求、研究する先生たちの要望を実現するための観測機器開発へとシフトしていった。

「当時、上空で使う観測機器の開発は諸外国に遅れをとっていた」(谷本氏)。その遅れを取り戻し、よりよい機器をつくろうと、寝る間も惜しんでの開発が行われたのだ。こうしてX線や紫外線を観測する機器など、世界で通用する高度な観測機器が次々と生まれた。

同社がつくる宇宙関連の観測機器の特徴の一つとして、もともとは宇宙で使用することを想定していない部品(民生部品)を使用することで、低コスト化を実現していることがある。

宇宙開発用に特別につくられた部品は、ネジ一つとっても通常の何十倍もの価格がする。だが、大学などの研究機関では予算が限られており、すべてを宇宙用の特別な部品でつくることは不可能だった。

同社ではこれまで、核となる技術を自社で開発し、それ以外については、日本のみならず、いいものであれば海外製品も使う。民生部品を組み合わせたものが宇宙空間で使えるかどうかをテストし、どうすれば宇宙に持っていけるかを考え、カスタマイズしてきた。これは、予算の制約があったからこそ生まれた手法だった。「それが今の低コストでできる超小型衛星の開発へとつながっている」と谷本氏は言う。


宇宙技術を地上へ

2011年、同社が開発した超小型衛星「WE WISH」は、国際宇宙ステーション「きぼう」の放出実証ミッションに採用が決定。翌12年、実際に宇宙へと放出された。

今後同社は、「低コスト」と「観測機器に優しい」をコンセプトに、超小型人工衛星を開発していくという。

通常、人工衛星をつくる場合、まず、人工衛星そのものに必要な「バス機器」と呼ばれる、姿勢制御や通信、電力などの機器を中心に組み立てられる。データの収集に使う観測機器などは、後からバス機器に影響しないように取り付けられることが多い。同社が手がける超小型衛星は、これと正反対の考え方でつくられる。観測機器メーカーとして、衛星に搭載する際に感じていた不都合を、観測機器をメインとし、そのまわりにバス機器を配置して衛星を組み立てる方法で解消しようと考えたのだ。

「将来的には、衛星を活用して得たデータ提供を含めたサービスを展開していきたい」と谷本氏は言う。

宇宙科学観測機の開発は、常に技術の最先端を集結させる。そのため、一度つくったものを再度活用することはまずない。しかし、「1回だけで終わりにするのではなく、宇宙開発で生まれた技術をうまく地上に展開することで、さらなる広がりを生む」と谷本氏は言う。

宇宙関連事業で同社がつくってきたX線観測機器は、世界でもトップクラスのレベルを誇る。この技術を活用し、開発・製造したのが、理化学研究所の施設「SACLA」にある二次元半導体レーダーの心臓部だ。X線の画像を毎秒60コマの速度で取得するCCD読み出し回路がそれで、これにより、タンパク質の原子構造などをみることができるという。

「宇宙関連事業で開発した技術を地上で活用する。また、逆に地上で生まれた技術を宇宙へ応用するという相乗効果が、更なるビジネス展開を生む」と谷本氏は言う。


先を見通す力を

さらに、「メーカーにおいて、技術力は大切だが、それだけでは事業を発展していくことは難しい」と続ける。これまでにない新たな技術を次々と生み出している同社だが、技術をどう活かすかという目利きだけでなく、事業としてどういう方向に伸ばしていくかという目利きも重要だという。そうした力を伸ばすには、まずは情報収集が大切だ。谷本氏は現在、積極的に海外へ出向き、東南アジアへの展開も視野に入れつつ、アメリカやヨーロッパ諸国の宇宙関連事業についても情報収集に余念がない。

「現在はいろいろなところに営業に行き、そのニーズを探っている」と語る谷本氏。

超小型衛星は、通常の衛星と比べてごく低コストであげることができる。そのため、1機ではなく複数機上げることで時間分解能を上げ、ほぼリアルタイムで情報展開ができる。

たとえば、海難事故の際などに、救命ボートや胴衣にあらかじめセンサーを付けておき、着水したら信号が発信されるような仕組みをつくる。人工衛星が1機であれば1周90分ごとの情報更新となってしまうが、超小型衛星であれば、数を増やすことができる。同じ軌道に9機上げることで、約10分ごとに信号をキャッチできる計算になる。

このような安心安全に関連するビジネスや、位置情報をリアルタイムで知らせ、それに付加価値をつけたサービスの提供などを考えれば、超小型人工衛星を利用したビジネス展開は、さまざまに考えることができる。

今後、同社の宇宙事業は、機器開発や製造から、それを活用したサービスまで、幅の広い展開がなされるだろう。


※月刊ビジネスサミット2014年6月号より

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