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それは急斜面の葡萄畑の開墾から始まった

進化し続ける「奇跡のワイン」づくり

栃木県足利市の里山にある障害者支援施設「こころみ学園」の園生が丹精を込めて栽培した葡萄からつくる一杯のワインが、地域に夢と希望を与える「奇跡のワイン」の感動物語を生んだ。知的障害を持つ子供たちが急峻な斜面を2年がかりで開墾し、葡萄の苗木を植え、守り育ててきた葡萄でつくるワイン。そこに米国カリフォルニアの先進的な醸造技術が加わり、本物のワインへと進化してきたココ・ファーム・ワイナリーのワインづくりの取り組みを辿った。

それならば、働ける場所をつくろう!

栃木県足利市の郊外にあるココ・ファーム・ワイナリーは、障害者支援施設「こころみ学園」の関係者(園生の父兄)や地域の支援者の出資により、1980年に有限会社として設立した「こころみ学園」が運営するワイン醸造場だ。

こころみ学園は知的障害者教育に生涯を奉げた川田昇氏(故人)が1969年11月に開所した障害者更生施設だが、知的障害者は学校を卒業しても働く職場がない。そうした現実に「ならば働く場をつくろう」(川田氏)との想いから、学園施設づくりの一環として、足利郊外の山間部に川田氏が私財を投じて買った山の傾斜地を園生たちと一緒に開墾して造園した葡萄畑から奇跡のワインづくりは始まった。

その原点は学園開所の11年前に遡る1958年のことだった。当時の開墾の様子を撮影したセピア色の写真が、ココ・ファーム・ワイナリーのワインショップ入り口にメモリアルとして掲示してある。平均斜度38度の急斜面の土地約3ヘクタールを切り拓き、そこに600本の葡萄の苗木を植えていく開墾作業は2年がかりの大仕事だった。


カリフォルニアワインのノウハウを導入

現在、ココ・ファーム・ワイナリーは、1950年代に開墾された最初の葡萄畑(開墾園)を含めて足利市と佐野市に5つの葡萄畑を持ち、年間16 万本のワインを醸造、販売するワイナリーに成長。5つの自家畑に加えて北海道、山形、長野、山梨、群馬、埼玉、栃木の契約栽培農家とタイアップして、国産葡萄100%のワインづくりを行っている。

その開墾園から始まるこころみ学園の「奇跡のワイン」づくりは、1989年10月にカリフォルニアワインづくりの米国人醸造技術者ブルース・ガットラヴ氏の支援と参加により、世界市場で通用する本物のワインづくりへと磨きがかかる。それ以来、ガットラヴ氏は日本に在住し、現在はココ・ファーム・ワイナリーの取締役として、ワイン醸造の第一線で活躍している。


世界の貴賓に供される栄誉に浴す

ココ・ファームのワインを一躍有名にしたトピックは、2000年の九州・沖縄サミット(主要国首脳会議)の首里城晩餐会での乾杯のワインとして、ココ・ファームのスパークリング・ワインが提供されたことだった。

それは足利の山を開墾して造園した葡萄畑で収穫した葡萄からつくるワイン醸造に認可がおりた1984年秋から数えて15年目の出来事だった。その後も2008年の北海道洞爺湖サミットでの総理夫人主催夕食会でもココ・ファームのワインが提供され、いまではJALのファーストクラスのラウンジで同社自慢の白ワイン「足利呱呱和飲」がサービスされるまでになっている。



本物にこだわるワインづくりに徹する

池上智恵子ココ・ファーム・ワイナリー専務取締役で「こころみ学園」を経営する社会福祉法人こころみる会理事長は、こころみ学園を創設した川田昇氏の長女だが、「父は障害者がつくるワインとして同情で買ってもらえるのは一回限りだから、最高の葡萄をつくり、本物のワインづくりをしないと事業は継続できない、ということをいつも言っていました。その精神は本物中の本物のワインづくりに徹する当社の基本ポリシーとなって受け継がれています。福祉や地産地消でワインビジネスが成功するわけではない」として、本物にこだわり、持続可能なワインづくりに陣頭指揮を執る。


適地適品種で多様なテイストを追求

ココ・ファームでは、適地適品種の観点からマスカット・ベイリーA、ノートン、タナ、リースリング・リオン、プティ・マルサン、小公子などの多様な品種を栽培し、国産葡萄100%の自家製ワインを醸造、販売している。「当社のワインは潰(つぶ)した葡萄の果皮についている野生酵母だけで発酵させる自然の醸造法にこだわり、葡萄の風味を活かしたワイン本来の深い味わいを生むワインづくりに努めている」(池上専務)という。

造った製品の流通は、通信販売30%、レストランなどへの直接販売30%、酒販店への卸販売40%の販売比率で推移しており、適地適品種の栽培葡萄から醸造される国産ワインとして全国各地の食卓を賑(にぎ)わしている。ココ・ファーム・ワイナリーには、ワインショップとワイン醸造場の建物にレストランを併設しており、葡萄畑を眺めながら美味しいワインと食事が味わえるサービスを提供している。


ワインづくり進化論を実践する

進化するワインづくりに取り組むココ・ファーム・ワイナリーは、1984年のワインづくり元年から数えて今年で30年目を迎える。古今東西のワインづくりの歴史から見れば、30年は微々たるものかも知れない。だが、こころみ学園の園生の中には91歳になる高齢者もおり、いまも元気でワインづくりの作業を続けている。彼らの人生において、30年の葡萄づくり、ワインづくりは、園生たちの自分史として深く、濃密なものだろう。

こころみ学園の園生は現在、約150名おり、山林や田んぼの草刈りや葡萄畑の手入れ作業を手伝っている。葡萄が実る季節には、山の斜面で朝から晩まで缶をたたいて鳥を追い払う仕事に精を出し、冬場は剪定後の枝を拾う作業に取り組む園生たち。彼らの一生懸命な仕事に支えられ、元気づけられながら、ココ・ファーム・ワイナリーのワインづくりは日々、進化し続けている。



 

  • ココ・ファーム・ワイナリー
  • 栃木県足利市田島町611
  • 0284-42-1194