がんばろうニッポンの中小企業とは?

​会社を自分色へと変革

〝職務〞として「社長」を全うする

銀行員として充実した日々を過ごしていたある日、父親がくも膜下出血で倒れてしまう。気弱になった父を目の前に、長男として会社を引き継ぐ責任に目覚めた日本カーゴエキスプレス(東京都港区)の現社長、鈴木隆志氏は、持ち前のバイタリティと銀行員の知識を生かしながら、古い習慣を廃し会社に新風を起こしていく。「社長は職務」と捉え、業務を俯瞰することで冷静に先を見通し、会社を継続させるための一手を次々と実践している。

長男としての目覚め

日本カーゴエキスプレスは、鈴木隆志社長の父、唯男氏が1968年に創業した運送会社だ。鈴木氏は大学卒業後銀行に就職。生涯銀行員としてやっていこうと、精力的に仕事を行っていた。

ところが、入行して四年目を迎えようとしたとき、それまで元気だった父親がくも膜下出血で倒れてしまう。回復はしたものの、気弱になった父の姿に、「長男の自分が父の会社を継がは言う。そのがんばりは、徐々に社員の気持ちを「ちゃんとできるのか?」と不信に満ちたものから「若いのにがんばっている」と肯定的なものへと変えていった。

父親は、一度は回復したものの、再び体調を崩し逝去。95年、鈴木氏は、社長に就任した。


社長は〝職務〞

会社を継いだばかりのときは、「自分が会社の社員やその家族の人生を背負っているんだと感じていた」(鈴木氏)。だが、気持ちばかりが先回りし、舵取りがうまくいかない時期が続いた。

そんなとき、父の友人で創業メンバーの一人に「『社長』は特別なものではない。部長、課長と同じように、社長という役職にすぎない」と言われた。「目から鱗がおちる思いだった」と鈴木氏は言う。

社長は「役職」。社員やその家族の人生を背負っていると気負うのではなく、より効率的に社員の生産性を上げるには、どのような組織をつくればいいのかを考えることが、最大のミッションだ。「役割の向こうにある、ぼんやりとした責任や義務を感じるのはやめようと考えた」と鈴木氏は言う。

他人の人生を背負っているという気負いがなくなったことで客観的に会社を継続していくための方法を考えられるようになり、新たな組織づくりはうまくいくようになっていった。

こうして鈴木氏は、時代の流れに合わせたスピーディーな経営をするために、改革を進めていった。


時代の流れに乗った改革を

先代から引き継いだ会社は、社内の制度も役職者もそのままだった。当時は役職者への昇格など、評価基準が明確化されておらず、「どうしてその役職なのかわからない人もいた」(鈴木氏)。社長なのに、役職者が役職者たる理由がわからない。その状況を改善しようと、部長、課長、係長といった役職者に必要な能力などを明確化。これまで感覚で行ってきたことを、極力論理的に説明ができるようにした。そのうえで、「すべての役職をリセットした」(鈴木氏)。

部長も課長も平社員も同列にし、その後の2カ月間の仕事ぶりだけをみて評価。新たに役職を決め直すという改革を行ったのだ。こうした改革に、理解を示してくれない社員もいた。そうした社員とはとにかく話し合いを行った。新しいやり方は合わないといって辞めていく人がいなかったわけではない。だが、「叩き上げの社員ではないからといって、古参社員の顔色ばかりを伺っているわけにはいかない」(鈴木氏)。

もちろん、こうした取り組みは、鈴木氏が独断専行をしたというものではない。重大な決断をするときは、まずは社員にその理由をきちんと説明した。新事業を始める際や何かを決定する場合は、自分だけで決めるのではなく、必ず役員会に図るようにした。そうすることで、社内の風通しをよくしていった。現在では、とくに、「社員同士が補い合える関係づくりに注力している」と鈴木氏は言う。

こうした考えは、以前鈴木氏自身が過労で倒れてしまった際の経験から生まれたものだ。脳梗塞で顔の右半分、体の左半分が麻痺し、一カ月以上の休養を余儀なくされたのだ。この経験が鈴木氏の考え方を変えた。いくらがんばっても、一人でできることには限りがある。補いあえる関係性をきちんと醸成できるような組織づくりを考えるようになったのだ。


新規事業は3年おきに

「どんなにすばらしい事業でも、5年経てば陳腐化する」(鈴木氏)。その考えのもと、鈴木氏は常に新たな事業の種を探して来た。

以前はまったく新しい事業を興した際、多くの企業が「他社でやっていないことならチャレンジしたい」と言っていた。だが今では、まず「実績は?」と問われる。「それだけ、どの会社も冒険できなくなっている」(鈴木氏)。そういう時代背景をもちながらも、新規事業を立ち上げることで社内に新たな血を入れることは、会社を継続させるためには重要だ。

「新規事業は自分で考えるものではなく、お客さまの声から得られるもの」と鈴木氏は言う。「こんなこともやってもらえないか?」という声に耳を傾け、それに応えていくことで、新たな事業が生まれるのだ。

そうした考えのもと、今大きく育とうとしているのが、2000年に立ち上げたメール事業部だ。

これは、企業のメール室の請負事業で、企業の郵便物の管理や宅配便の集荷・出荷管理などを一括して請け負う事業だ。重要書類の紛失や、盗難防止、爆発物や炭疽菌といった危険物による被害を水際で防ぐなど、これまであまり重要視されてこなかった、メール室のセキュリティに着眼。これからの時代を先取りする新たなサービスとして、大手企業を中心に、注目を浴びている。だが、「今後、急速に事業を拡大し、上場をめざすようなことは考えていない」と言う鈴木氏。

経営者には、さまざまなタイプがいる。「ゼロを1万にはできないが、毎年100を120にすることはできる」(鈴木氏)。自身の得意なやり方を見極め、関連事業から少しずつ取引先を増やし、地道に会社を続けていくのが、鈴木流なのだ。

※月刊ビジネスサミット2014年7月号より


 

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